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浦和地方裁判所 昭和60年(ワ)477号 判決

原告

河辺行子

原告

小峰光政

右両名訴訟代理人

市江昭

被告

福田産業株式会社

右代表者

福田宏

右訴訟代理人

大谷隼夫

主文

一、被告は原告河辺に対し金四一八万円、同小峰に対し金六五一万二〇〇〇円及びいずれもこれに対する昭和六〇年一〇月一日からその各支払ずみまでの年六分の割合による金員を支払え。

二、原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。

四、この判決は原告ら勝訴部分に限りかりに執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は原告河辺行子に対し金五〇八万四四四七円及びこれに対する昭和五九年五月一二日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告小峰光政に対し金七九五万五二二二円及びこれに対する同年二月一二日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行の宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は建物の管理賃貸を業とする会社である。

2  原告河辺は昭和五四年九月二八日保証金五二二万五〇〇〇円を預託して被告から別紙物件目録一の室を、期間は同年一〇月一日から三年間、保証金は三年で五パーセント償却の約で賃借した。

3  原告小峰は昭和五七年九月二七日保証金八一四万円を預託して別紙物件目録二の室を、期間は同年一〇月一日から三年間、保証金は三年で五パーセント償却の約で賃借した。

4  原告河辺は昭和五七年九月二二日被告との間で、保証金償却分二六万一二五〇円を補てんして前記2の契約を更新し、同年一〇月一日から更に三年間賃借した。

5  被告の間で、原告河辺は昭和五九年二月一一日、原告小峰は昭和五八年一一月一一日それぞれ右賃貸借契約を合意解約し、原告河辺は昭和五九年五月一一日右二〇六号室を、原告小峰は同年二月一一日右二〇五号室をそれぞれ被告に明渡した。

6  よつて被告に対し、原告河辺は前記預託にかかる保証金五二二万五〇〇〇円からその二・六九パーセント(三年で五パーセント償却という割合による一年七月一一日の期間に応じた償却率)の償却分金一四万〇五五三円を差引いた金五〇八万四四四七円、原告小峰は前記預託にかかる保証金八一四万円からその二・二七パーセント(三年で五パーセント償却という割合による一年四月一一日の期間に応じた償却率)の償却分金一八万四七七八円を差引いた金七九五万五二二二円及びこれに対する各明渡の日の翌日からその支払ずみまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

すべて認める。

三  抗弁

1  本件賃貸借契約には保証金返還の時期につき、期間満了の場合及び賃貸人が解約を申し出た場合のほかは、本件貸室につき新賃借人が決定した日より一ケ月以内とする約定があるところ、原告らが明渡した本件貸室については賃貸人である被告の努力にもかかわらず未だ新賃借人が決定していないから被告は未だ原告ら主張の保証金の返還義務を負わない。

2  また、かりに被告において原告らに対し保証金の返還義務を負うとしても、本件賃貸借契約には賃貸借契約が終了した際、賃貸期間が三年未満のときは保証金の二〇パーセント相当額を差し引き残額を返還する旨の約定があつた。

四  抗弁に対する認否

1の主張は争う。尤も本件賃貸借契約においては保証金の返還時期は期間満了の場合及び賃貸人が解約を申出た場合には明渡完了時とされ、その他の場合には賃借店舗に新賃借人が決定した日から一ケ月以内とされているが、右の「その他の場合」というのは賃借人に契約違反があつて賃貸人から契約を解除されたような場合に限るべきであり、本件のような場合にはこれにあたらない。

2の主張も争う。保証金の償却分は、主として建物の修復等に充てることを目的とした賃料前払と解されるから、経過した期間に応じ按分償却されるべきであり、賃貸期間三年未満の場合に二〇パーセント相当額を差引くというのは、保証金償却の性格からしても何ら合理性を有しない、借家法六条の趣旨にも反する条項であつて効力を有しない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因事実はすべて当事者間に争いがないので抗弁について判断する。

1  保証金の返還時期について

〈証拠〉によれば、本件賃貸借契約には保証金の返還時期について被告主張どおりの約定があつたことが認められるところ、期間満了又は賃貸人の都合で契約が終了する場合に保証金の返還時期が明渡完了時に到来するものとしたことは当然のこととして、そうではなくて、賃借人の都合で(その責めに帰すべき事由による場合も同様)契約が終了する場合には、賃貸人の予期しない時期に契約が終了するものであるから、この時期に保証金を返還しなければならなくなる不都合を避け、新賃借人がきまり返還する保証金の手当ができた段階でこれを返還することとしたものと思われるが、明渡が完了したにもかかわらず新賃借人が決定しない限りいつまでも賃借人において保証金の返還を受けられないのも明らかに不合理であるから、かりに新賃借人がきまらなくても当初契約で定めた賃貸期間が満了したときには賃貸人の保証金返還義務が生じるものというべきである。このように解しても期間満了時にはもともと保証金を返還すべきことが予定されているのであり、賃貸人に対し何ら格別の不利益を課するものではない。

従つて被告は原告らに対しそれぞれ賃貸期間が満了した昭和六〇年九月三〇日限り後記の保証金を返還すべき義務を負つたものというべきである。

2  返還すべき保証金の額について

〈証拠〉によれば、抗弁2の事実が認められ、そして本件が賃貸期間が三年未満の場合であることは明らかである。

ところで原告はこの約定は無効である旨主張するが、賃借人の交替の際には新賃借人を見つけるまでにある程度の家賃収入を得られない期間を生ずることは往々にして避けられないものと思われるし、またその際には賃貸人において新賃借人獲得のための諸経費、新たな賃貸に備えての賃貸物件の補修等の費用の負担を余儀なくされるであろうことも見やすいところであるから、一旦なされた契約が短期に終了することを防ぎ、ひいてその安定的な収入を確保するため賃貸借が短期に終了する場合にはいわば賃借人に対するペナルティを課する意味で、それ以外の場合に比し多額の償却をして保証金を返還することも不合理ではなく許されるものというべきである。

従つて被告主張の約定は有効というべきであり、被告は原告らに対しこの約定に従い前記保証金のうちそれぞれその二〇パーセントを償却した残額を返還すべき義務を負うに上まるものというべきである。

二よつて原告河辺の本訴請求は、同人が被告に預託した前記保証金の八割に相当する金四一八万円及びこれに対する昭和六〇年一〇月一日からその支払ずみまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であり、また原告小峰の本訴請求は、同人が被告に預託した前記保証金の八割に相当する金六五一万二〇〇〇円及びこれに対する右同様の金員の支払を求める限度でそれぞれ理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官松井賢徳)

物件目録

一、大宮市仲町一丁目五〇番地

家屋番号 五〇番

鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付六階建店舗

のうち二階の二〇六号室(床面積三一・三五平方メートル)

二、右建物のうち二階の二〇五号室(床面積四四・四平方メートル)

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